離婚の知識
離婚と財産分与
離婚をする際には、結婚後にご夫婦で築いた財産は、お金に換算して分けることになります。
この財産分与でもめることが多いため、このページでは財産分与の交渉にあたっての注意点と対策をご紹介します。
なぜ財産分与でもめるのか
財産分与については、トラブルになることは大変多いです。
妻側からすると、
- 今まで専業主婦をしていたから、自分名義の財産がほとんど無い、今後の生活が不安なので、できる限り夫から財産分与を受けたい。
- 離婚後の生活を考えると今住んでいる家だけは絶対にほしい。
- 両親から多額の援助を受けているので、その分は別途余分に払ってほしい。
夫側からすると、
- 妻から財産分与を請求されているが、自分が経営している会社の株式だけは取られたくない。
- 今の財産は自分が築いてきたものなので、できる限り妻には渡したくない。
- 妻側に浪費があったので、財産分与にあたって考慮してほしい。
- 両親から贈与を受けているので、その分は差し引いてほしい。
等の主張があり、譲れない対立に発展することがあります。
財産分与は、の問題はシンプルに考えると、「どの財産を」「どう分けるか」ということです。
財産分与の対象となる財産とは
まず離婚時に「どの財産を」わけるかをみていきましょう。
財産分与の対象となる財産
離婚時の財産分与では、「婚姻期間中に夫婦が協力して取得、維持してきた全ての共有財産」が対象になります。
現金、不動産、預金、生命保険金、株式、自動車、家財道具など全てです。 借金や住宅ローンなど、マイナスの財産も対象になります。
結婚前から所有していた個人の財産や相続や贈与で得た財産などは対象にはなりません。これを「特有財産」といいます。
なお、ギャンブルや浪費で一方が勝手に作った借金なども対象になりません。
見落としがちな財産
(1)相手が隠している財産がないか?
場合によっては相手が財産を隠している場合もあります。
へそくりや、相手に知らせていない銀行口座などです。
当事務所では徹底的に相手の財産については調査して、全ての財産を明らかにします(手続き上一定の制約がありますが、可能な限り明らかにします。)。
(2)見逃した財産は無いか?
いまある財産についてはあまり見落とすことはありませんが、将来もらえるものについて見落としてしまうことがあります。その最も大きなものが退職金です。退職金も財産分与の対象となる場合があります。
共有財産をどう分けるか
次にこの財産を「どうわけるか」についてご説明します。
基本的には夫婦で5:5
よくあるのですが、 「自分が稼いだ金は妻に渡したくない。」 「共働きにも関わらず家事は全て私がやり、夫は何もしていない。だから、私が多くもらえるのは当然だ。」 と主張される方がいらっしゃいます。
夫婦関係には様々な形態がありますが、財産形成にどちらがどれだけ貢献したかを明確に算定することは殆ど不可能です。そのため、近年では原則的に夫婦5:5で算定することになっています。2分の1ルールとも言います。
5:5とならない場合
このように、財産分与は2分の1ルールが定着していますが、協議や調停なら、お互いの合意があれば、これに関係無く自由にわけることができます。
また、慰謝料の代わりに多めに財産をもらうという「慰謝料的財産分与」や離婚後の生活に経済的不安がある場合に、妻に多めに分与する「扶養的財産分与」もあります。 交渉の方法次第では、2分の1ルールよりも多くもらえる場合もあります。
現金以外の財産分与
現金・預金しかない場合には、財産分与の方法は簡単ですが、不動産、自動車、家財道具、株式など、様々な種類の財産が含まれると、適切に算定して分け方を決める必要があり、複雑です。 こういった複雑な財産分与こそ、法律専門家の知識と交渉力が必要になると思います。
財産分与と税金
離婚に伴う財産分与では、多額の財産の移転が生じることから、税金問題に注意しなければなりません。
離婚の際、今ある財産をどう分けるかはよく検討するものの、それだけに精力を使い果たし、税金問題の検討を忘れがちです。
しかし、税金問題の検討をせずに財産分与を行い、挙げ句多額の税金が発生すると、当事者が重大な不利益を被ることになります。
まず、そもそも離婚に伴う財産分与には税金がかかるのでしょうか。
離婚に伴う財産分与に税金がかかるかどうかは、財産を分与する側か、分与される側かで違います。
財産を譲り受ける側の税金
財産を譲り渡す側の税金についてご説明します。
財産を譲り受ける側は、離婚によって生じた財産分与請求権に基づいて財産が分与されるものに過ぎず、贈与等によって財産を取得するものではないので、贈与税の課税対象ではありません。
つまり、財産分与をされる側には税金はかかりません
ただし、分与される側が、離婚により取得した財産やその分与財産の価額が過当である場合、離婚を手段として贈与若しくは相続税のほ脱を図ると認められる場合、には、贈与があったものとして取り扱われることが例外的にあるので、そこは注意が必要です。
裏を返すと、このような極端な場合以外は、原則税金はかからないということです。あまり無いとは思いますが、もらいすぎには注意が必要でしょう。
財産を譲り渡す側の税金
財産を譲り渡す側の税金についてご説明します。
金銭で支払う場合は税金がかかりません
財産分与を金銭の支払いによって行う場合は、受け取る側にも渡す側にも、税金はかかりません。
金銭以外の場合は税金(譲渡所得税)がかかる場合があります
財産を渡す場合にかかる可能性があるのは、譲渡所得税です。
譲渡所得税の対象となるのは、所得税法上の「資産」であり、代表例は次のとおりです。
・不動産(土地、建物)
・その他、(株式等、宝石、書画、骨董、ゴルフ会員権など)
これらの財産を分与する際、分与時の時価が購入時に比較して高い場合、支払わなければならない可能性があります。
譲渡所得税の計算方法
譲渡所得税には、A.所得税、B.復興特別所得税、C.住民税の3種類あり、その計算方法は、譲渡時の所有期間に応じて異なります(長期譲渡所得、短期譲渡所得)。
※平成30年6月現在
ⅰ)長期譲渡所得(譲渡した年の1月1日において所有期間が5年を超えるもの)
A 所得税=課税長期譲渡所得金額×15%(所有期間10年超なら10%*)
B 復興特別所得税=所得税×2.1%
C 住民税=課税長期譲渡所得金額×5%(所有期間10年超なら4%*)
*所有期間が10年超の居住用不動産の場合は、軽減税率(租税特別措置法31条、31条の3)により、A.所得税は10%、C.住民税は4%に軽減されます。
ⅱ)短期譲渡取得(譲渡した年の1月1日において所有期間が5年以下のもの)
A 所得税=課税長期譲渡所得金額×30.63%
B 復興特別所得税=所得税×2.1%
C 住民税=課税長期譲渡所得金額×9%
※課税長期譲渡所得金額=譲渡収入金額-(取得費+譲渡費用)-特別控除
譲渡収入金額:分与時の時価
【注意】なお、ローンがあっても、この分は差し引かれません。
取得費:購入代金、購入手数料、改良費、減価償却費相当額(建物の場合)など *概算取得費・・・譲渡価格の5%より少ないときや譲渡価格が不明の場合は、概算取得費として譲渡価格の5%として計算されます。
譲渡費用:測量費、売買仲介手数料など
特別控除:離婚後、居住用財産を分与する場合は、3000万円まで控除(租税特別措置法35条)。
【注意】離婚後でないと控除の適用がありません。
譲渡所得税の計算例
具体的に計算してみましょう(※実際に税額を計算する必要があるときは税理士さんに必ずご相談になって下さい。)。
例えば、夫が妻と離婚し、その後、7年前に夫名義で購入した自宅土地建物(時価1億円、購入価格5000万円、ローン残高1000万円)を分与することになったとします。
この場合、夫が払う譲渡所得税を計算すると次のようになります。
(考え方)
①自宅土地建物は居住用財産にあたり、また、離婚後の分与ですから、特別控除の対象になります。
②所有期間が7年ですから、長期譲渡所得にあたります。
③ローンは考慮されません。
(計算)
課税長期譲渡所得額
=譲渡収入金額(1億円)―取得額(5000万円)―特別控除(3000万円)
=2000万円
所得税額
A 所得税(課税長喜譲渡所得額2000万円×10%) =200万円
B 復興特別所得税(所得税×2.1%)=4万2000円
C 住民税(課税長期譲渡所得金額2000万円×5%)=100万円
財産分与の交渉時には課税を意識しましょう
財産分与の交渉にあたっては、分与者が、自分にかかる税金を恐れ、分与を渋ることもありますから、もらう側は分与者の不安を取り除くよう、大まかな税金の知識を身につけておくべきでしょう。
まず、金銭を分与した場合は、特に分与者に税金が発生することは基本的にありません。したがって、金銭を分与したら課税に問題が生じない旨説明することは有益です。
次に、不動産などを分与した場合は、分与者に課税が生じますから、注意が必要です。
たとえば、2000万円で取得した不動産が現在6000万円の価値を有していて、これを無償で妻に財産分与する場合、平成30年現在の税制をもとにおよその計算をしますと、6000万円(現在価値)-2000万円(取得費)-3000万円(特別控除)=1000万円が譲渡所得となり、これに、当該不動産の所有期間に応じた税率をかければ、税額が出ます。
このような税金が発生することは念頭に入れた上で、財産分与の金額交渉を行うのが望ましいと言えます。
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