離婚の知識
婚姻費用の算定、通常と高額所得者の場合の違い
婚姻費用とは、夫婦が婚姻生活を維持するために必要な費用を指し、衣食住費、医療費、教育費などが含まれます。
一般的には収入の多い方が少ない方に対し、婚姻費用を支払うことになります。
夫婦関係が円満であれば、婚姻費用が問題になることはあまりないと思いますが、離婚を前提に別居しているなど、夫婦関係が悪化している場合ですと、婚姻費用の金額をめぐって夫婦間で激しい言い争いになることがあります。その場合、当事者間の話し合いでは婚姻費用の金額を取り決めることができず、裁判所で婚姻費用の金額を取り決めることになるという事態が散見されます。
そして、裁判所で婚姻費用の金額を取り決めることになった場合に、婚姻費用の金額は、具体的にどのように算定するのかを尋ねられることがあります。
一般的には、算定表(【表13】参照)という家庭裁判所で用いられている基準に基づいて算定されますが、特殊なケースでは、算定表を用いない場合もあります。
そこで今回は、算定表に基づいて婚姻費用を算定する場合と特殊な方法で婚姻費用を算定する場合について、対話形式でご説明いたします。
case1. 算定表に基づいて婚姻費用を算定する場合
私は夫と今から10年ほど前に結婚し、長男(7歳)と長女(5歳)の2人の子をもうけましたが、その後夫婦の仲が悪くなり、私は子供達を連れて別居しました。
夫は会社勤めをしているのですが、年収は600万円ほどです。
私は、派遣社員として働いており、年収は200万円ほどです。
夫は婚姻費用として毎月6万円ほど私名義の口座に振り込んでくれるのですが、6万円では生活が成り立たないため、私は婚姻費用の調停を申し立てようと考えております。
私は夫に対し、婚姻費用としていくら請求できるのでしょうか。
算定表に基づいて婚姻費用の金額を算定した場合、Aさんと夫の各年収及びお子様の年齢を踏まえると、月額12〜14万円が相当ということになります※1。
なお、源泉徴収票の「支払金額」(控除されていない金額)が年収にあたります。
※1 婚姻費用・子2人表(第1子及び第2子0~14歳)の表(下図)に基づき計算されることになります。
下記のURLから裁判所のホームページにアクセスできます。
https://www.courts.go.jp/toukei_siryou/siryo/H30shihou_houkoku/index.html
case2. 算定表を用いない特殊な場合【高額所得者の場合】
私は妻と今から15年ほど前に結婚し、長男(12歳)と次男(10歳)の2人の子をもうけましたが、その後夫婦の仲が悪くなり、妻は子供達を連れて別居しました。
私は会社の役員を務めており、年収は3,000万円ほどあります。
妻はパート勤務をしており、年収は120万円ほどです。
妻が家を出ていった後、私は毎月35万円の婚姻費用を妻に支払っていたのですが、つい先日婚姻費用の調停を妻から起こされてしまいました。
私は妻に対し、婚姻費用としていくら支払うことになるのでしょうか。
算定表は、年収2,000万円までのケースしか用いることができないため、今回のケースでは算定表以外の方法で婚姻費用を算定することになります。
具体的には、①基礎収入※2の割合を修正する方法、②貯蓄率※3を控除する方法、③同居中の生活レベル等から算定する方法の3つの方法が考えられます。
これらの算定方法は、かなり難解であるため、詳細な説明は割愛させていただきますが、①から③のどの方法が用いられるかは、諸般の事情を考慮して決められることになります。
仮に①の計算方法で算定した場合、Bさんは妻に対し、月額60万円程度の婚姻費用を支払うことになります。
なお、仮に上記のケースで、Bさんの年収が2,500万円以下であった場合、算定表の上限である2,000万円と考えて算定する場合もあります※4。
仮に、Bさんの年収を2,000万円と考えて婚姻費用を算定した場合、Bさんは妻に対し、月額42万円~44万円の婚姻費用を支払うことになります。
※2 「基礎収入」とは、総収入(給与所得者の場合、源泉徴収票の「支払金額」)から公租公課や職業費、特別経費などを控除した額を指します。
※3 「貯蓄率」とは、家計が得た可処分所得(給与所得者の場合、手取り額)のうち、消費支出に回らずに手元に残った貯蓄の割合を指します。
貯蓄率を割り出すための具体的な計算式は、
1年間の貯蓄額÷可処分所得(手取りの年収)×100
となります。
※4 養育費の場合は、収入金額に関係なく算定表の上限額(2,000万円)で算定することがあります。
まとめ
以上のとおり、今回は、婚姻費用の算定方法についてご説明いたしました。
家庭裁判所で婚姻費用の金額を取り決める場合は、算定表を用いて算定することが一般的ですが、高額所得者の場合は、特殊な算定方法を用いることがあります。
そして、高額所得者の場合の婚姻費用の算定方法は、かなり難解であるため、婚姻費用をいくら支払えば良いか悩んでいる方や、婚姻費用がいくら貰えるのか分からない方は、ぜひ一度弁護士にご相談されることをお勧めします。
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※2024年12月時点の法令や判例を前提としています。法令の改廃や判例の変更等により結論が変わる可能性がありますので、実際の事件においては、その都度弁護士にご相談を下さい。