離婚の知識
配偶者に対する慰謝料請求を免除する場合の注意点
愛人は許せないからきっちり慰謝料を請求するけど、子供のこともあるから、配偶者に対しては慰謝料を請求しない、免除する、というケースがあります。
この場合、愛人にしてみると、当事者の1人が慰謝料を免除されるならば、自分も免除されなければおかしい、全額免除とはいかなくても半分免除ということにして欲しい、と主張したいところでしょう。

この問題は、一方当事者に対する債務免除の効力が他方当事者にも及ぶか(免除の絶対効)というものです。
この問題については既に最高裁判決があり、決着がついています。
最高裁平成6年11月24日判決は、
「民法719条所定の共同不法行為者が負担する損害賠償債務は、いわゆる不真正連帯債務であって連帯債務では無いから、その損害賠償債務については連帯債務に関する同法437条の規定は適用されない」
と判示しています。
ちょっと分かりにくいですが、配偶者に愛人は共同で不法行為を行った加害者であって、債務の性格上、1人が免除されても他方当事者はその損害賠償債務を1円も免れるものではない、ということです。
したがって、配偶者に対する慰謝料を免除したからといって、愛人の慰謝料が一部免除されることは法的にはないと言えます。
もっとも、配偶者に対して慰謝料を免除しているという事情から、慰謝料を額を減額するという下級審の裁判例もあるため、注意が必要です。
愛人からきちんと慰謝料を請求したい方は、配偶者に対する慰謝料請求を早期に免除することが無いよう注意するべきでしょう。
弁護士 片岡憲明
※平成30年8月28日時点の法令や判例を前提としています。法令の改廃や判例の変更等により結論が変わる可能性がありますので、実際の事件においては、その都度弁護士にご相談を下さい。
監修者プロフィール

弁護士 片岡 憲明
弁護士法人 片岡法律事務所 代表
愛知県弁護士会所属 登録年(平成15年)
1977年岐阜県大垣市生まれ。東京大学法学部卒業、2001年司法試験合格。2003年より弁護士登録し、名古屋市を拠点に法律実務に従事。現在は、弁護士法人片岡法律事務所に所属。
企業法務・交通事故・民事再生といった案件に携わった経験をもとに、現在は個人・法人問わず多様な相談に対応している。特に、離婚・相続などの家事事件や、労働問題・特許訴訟など企業法務に強みを持つ。
愛知県弁護士会および日弁連の各種委員会にも長年にわたり参加し、司法制度や法的実務の発展にも尽力。現在は日弁連司法制度調査会商事経済部会副部会長を務める。
常に変化する法的課題に真摯に向き合い、依頼者一人ひとりにとって最良の解決を目指している。



