不貞にショックを受けて病気となり仕事を休んだ場合、休業補償や治療費を請求できるか

信じていた夫・妻に不貞をされるというのはひどい裏切り行為です。
思いがけず不貞を知ってしまった他方配偶者が、思い悩み、精神疾患になることも十分に考えられます。
不貞がショックで、病院に通院したり、仕事ができなくなったりした場合、治療費や休業損害を自己負担せよ、というのも理不尽です。

不貞にショックを受けて病気となり仕事を休んだ場合、休業補償や治療費を請求できるか

そこで、不貞が原因で働けなくなった損害や病院の通院費分の損害について、損害賠償請求できるか、が争われる例が散見されます。

まず、休業損害についてですが、殆どの裁判例で否定されています

東京地裁平成22年2月3日判決、東京地裁平成22年9月28日判決、東京地裁平成23年6月16日判決は、いずれも不貞と休業損害との間の相当因果関係を否定しています(直接的な因果関係が無いとか、予見できない等の理由からです。)。

他方で、古い裁判例では、休業損害の損害賠償請求を認めた例もあります(大阪地裁昭和39年6月29日判決)。しかし、いかんせん古すぎるので、現在も通用するものであるかは疑問です。

なお、退職を余儀なくされたことに伴う損害等の主張も殆ど通りません(東京地裁平成20年10月8日判決、東京地裁平成22年7月28日判決)。

次に、治療費については、多くの裁判例で否定されていますが、肯定例もわずかながら存在します(東京地裁平成20年10月3日判決)。

判例の傾向としては、慰謝料以外に損害項目をある程度認めるとしても、休業損害や治療費までは原則として認めていない傾向であると結論づけられます。

たしかに、ただ不貞をしただけで相手方が病気になるとは予見しにくく、治療費や休業損害まで賠償せよ、というのは行き過ぎの感は否めません。

しかし、ことさらに、他方配偶者の心情を踏みにじるような悪質な態様で不貞が行われた場合には、相当因果関係を認めるべき場合もあるのでは無いかと個人的には考えております。

弁護士 片岡憲明

※平成30年8月28日時点の法令や判例を前提としています。法令の改廃や判例の変更等により結論が変わる可能性がありますので、実際の事件においては、その都度弁護士にご相談を下さい。

監修者プロフィール

弁護士 片岡 憲明

弁護士 片岡 憲明

弁護士法人 片岡法律事務所 代表
愛知県弁護士会所属 登録年(平成15年)

1977年岐阜県大垣市生まれ。東京大学法学部卒業、2001年司法試験合格。2003年より弁護士登録し、名古屋市を拠点に法律実務に従事。現在は、弁護士法人片岡法律事務所に所属。

企業法務・交通事故・民事再生といった案件に携わった経験をもとに、現在は個人・法人問わず多様な相談に対応している。特に、離婚・相続などの家事事件や、労働問題・特許訴訟など企業法務に強みを持つ。

愛知県弁護士会および日弁連の各種委員会にも長年にわたり参加し、司法制度や法的実務の発展にも尽力。現在は日弁連司法制度調査会商事経済部会副部会長を務める。

常に変化する法的課題に真摯に向き合い、依頼者一人ひとりにとって最良の解決を目指している。

電話で問い合わせ052-231-1706
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