離婚の知識
別居=婚姻関係破綻なのか?
婚姻関係破綻ならば慰謝料を払わなくてもいい
以前からコラムで述べているところですが、不貞慰謝料を請求されても、交際相手の夫婦がすでに婚姻関係が破綻した状態であったならば、慰謝料の支払いを免れることになります。

別居=婚姻関係破綻か?
では、婚姻関係破綻とはどういう場合を指すのでしょうか。
典型的には、当該夫婦が交際前に既に別居していたような場合が考えられます。
たとえば、東京地方裁判所平成23年6月30日判決では、「AとXの別居生活は、5年余りの長期に及んでおり、既にその婚姻関係は破綻していたと認めることができる」としています。
また、東京地方裁判所平成24年11月30日判決も「Xによれば、平成7年から8年には、AはXと別居を開始していることが認められ、Yは、別居開始の時期を平成19年1月頃とも主張していることからすると、XとAとの婚姻関係が破綻した後の不貞行為であり」「損害賠償請求の基礎とはならない」と判示しています。
このように見ると基本的には別居していた場合は、婚姻関係破綻を認めることができそうです。
別居していても婚姻関係破綻ではない場合は?
東京地方裁判所平成20年12月26日判決は、「Xはいわゆる里帰り出産をしたものと認められ、Xが実家での滞在を始めた時点でAとの婚姻関係が破綻していなかったことは明らかである」として、単に別居しているだけでは婚姻関係破綻を認めませんでした。
また、東京地方裁判所平成21年6月4日判決は「XとAとの間の夫婦生活にやや円滑さを欠くことがあったことは否めないが、両者問で真剣に離婚に向けた話合いが行われた事実はなく、XとAとが別居するに至ったのも、X及びAの両家の協議の上、両名に冷却期間を置いた方がよいとの判断からであって、離婚を前提に破綻していたものと認めることはできない」としています。
つまり、離婚をある程度念頭においた別居でないと必ずしも婚姻関係破綻とは認められないわけです。
同居しているのに婚姻関係破綻とした例も無くはない
東京地方裁判所平成19年9月13日は、別居以前に「Xは、Aとの間でいさかいを生じると、自宅内で包丁を持ち出すこともあった」という事実などを認定し、別居する前の時点での婚姻関係破綻を認定しています。
さすがに、これだけのことがあったならば、およそまともな婚姻状態ではなかったということなのでしょう。
このように、別居=婚姻関係破綻という原則はありますが、例外もあるので、事案を注意深く検討する必要があるわけです。
思い込みは我々弁護士にとって禁物なのです。
弁護士 片岡憲明
※平成30年8月28日時点の法令や判例を前提としています。法令の改廃や判例の変更等により結論が変わる可能性がありますので、実際の事件においては、その都度弁護士にご相談を下さい。
監修者プロフィール

弁護士 片岡 憲明
弁護士法人 片岡法律事務所 代表
愛知県弁護士会所属 登録年(平成15年)
1977年岐阜県大垣市生まれ。東京大学法学部卒業、2001年司法試験合格。2003年より弁護士登録し、名古屋市を拠点に法律実務に従事。現在は、弁護士法人片岡法律事務所に所属。
企業法務・交通事故・民事再生といった案件に携わった経験をもとに、現在は個人・法人問わず多様な相談に対応している。特に、離婚・相続などの家事事件や、労働問題・特許訴訟など企業法務に強みを持つ。
愛知県弁護士会および日弁連の各種委員会にも長年にわたり参加し、司法制度や法的実務の発展にも尽力。現在は日弁連司法制度調査会商事経済部会副部会長を務める。
常に変化する法的課題に真摯に向き合い、依頼者一人ひとりにとって最良の解決を目指している。



