離婚の知識
不貞慰謝料の請求ができない婚姻関係破綻の状態とは?
判例が示す一般論
東京地方裁判所平成14年7月19日は、「そもそも、婚姻は、男女の性的結合を含む全人格的な人間としての結合関係であり、その結合の内容、態様は多種多様にわたるものであって、性交渉の不存在の事実のみで当然に婚姻関係が破綻する というものではな く、破綻の有無を認定するにあたっては、夫婦間の関係を全体として客観的に評価する必要がある」と述べています。

→様々な要素を客観的に考慮して破綻の有無を認定することを明らかにしています。
また、東京地方裁判所平成22年9月9日は「婚姻関係が破綻しているというのは、民法770条1項5号の『婚姻を継続しがたい重大な事情がある』 と評価できるほどに、婚姻関係が完全に復元の見込みのない状況に立ち入っていることを指すものと解するのが相当であり、かかる状況になったかどうかについては、婚姻、期間、夫婦に不和が生じた期間、夫婦双方の婚姻関係を継続する意思の有無及びその強さ、夫婦の関係修復の努力の有無やその期間等の事情を総合して判断するのが相当であるものと解する」と述べています。
→どんな要素を考慮するか明確にしており、大変参考になります。
具体的事案における判断
性交渉が6年2ヶ月もなかったケースで、それ以外の要素を理由に破綻を否定しています(東京地方裁判所平成23年2月17日判決)。
岡山地方裁判所平成19年3月1日判決も、性交渉がなかったことを認めつつ、子供らとの同居や、給料を全額妻に渡していたこと等を理由に破綻を否定しました。
破綻の認定はとても厳格である
婚姻関係の破綻はそれが認められてしまうと慰謝料がゼロになってしまうのですから、不貞の被害にあった配偶者にとっては酷な結果となります。
そのため、裁判所としても、可哀想と考えるのか、破綻が認められるのは相当限定されているというのが実情です。
このように、破綻の認定はとても厳格なのです。
破綻は認めないが慰謝料額で調整する
婚姻関係は破綻に近いけれどもゼロにというのは可哀想、という場合は、裁判所は、破綻を否定しつつ、慰謝料を減額する要素として、円満を欠いていた、とか、破綻に瀕していた等の表現を用い、調整をおこなっています。
特に、危機状態にあった場合は、各種判例を見ていると、慰謝料額を50万円程度としている例もあり、かなり減額している例もあります。
ただ、婚姻関係が形骸化しているとか、破綻寸前とかいう表現を使用しつつ慰謝料額を200万円としている例もあるため、これだけで慰謝料額を決することもできないです。
事案の一部だけ切り取って慰謝料額を決定することは不可能と言えましょう。
弁護士 片岡憲明
※平成30年8月28日時点の法令や判例を前提としています。法令の改廃や判例の変更等により結論が変わる可能性がありますので、実際の事件においては、その都度弁護士にご相談を下さい。
監修者プロフィール

弁護士 片岡 憲明
弁護士法人 片岡法律事務所 代表
愛知県弁護士会所属 登録年(平成15年)
1977年岐阜県大垣市生まれ。東京大学法学部卒業、2001年司法試験合格。2003年より弁護士登録し、名古屋市を拠点に法律実務に従事。現在は、弁護士法人片岡法律事務所に所属。
企業法務・交通事故・民事再生といった案件に携わった経験をもとに、現在は個人・法人問わず多様な相談に対応している。特に、離婚・相続などの家事事件や、労働問題・特許訴訟など企業法務に強みを持つ。
愛知県弁護士会および日弁連の各種委員会にも長年にわたり参加し、司法制度や法的実務の発展にも尽力。現在は日弁連司法制度調査会商事経済部会副部会長を務める。
常に変化する法的課題に真摯に向き合い、依頼者一人ひとりにとって最良の解決を目指している。



