離婚の知識
婚姻関係の破綻が認められた裁判例の具体例とは?
繰り返しですが、婚姻関係が破綻していれば、配偶者が不貞していても、不貞相手に対し慰謝料を請求することはできません。
そして、これまた繰り返しですが、婚姻関係の破綻はなかなか認められないものだ、と説明しました。

今回は、夫婦の一方が離婚の意思を示していた場合に婚姻関係破綻が認められた裁判例を紹介します。
離婚の意思表示をしている場合
離婚の意思表示をした場合に婚姻関係破綻を認めている裁判例があります。
東京地方裁判所平成25年3月27日判決では、
「XとAとの婚姻関係は修復不可能となって破綻に至っているが、その破綻の時期は、遅くとも、Xの不貞行為によりAが離婚の意思を固めてこれを表明した平成24年7月2日で あると認めるのが相当である。」
と判示しています。
また、東京地方裁判所平成25年1月18日判決では、
「Aは、平成23年1月、Xとの信頼関係が失われ、婚姻関係の継続が困難であると考えいったん別居し、その後、同居を再開したものの、Xとの間で精神的・経済的な信頼関係を回復することができずに本件別居に及んでいるのであり、Xにおいても同年6月4日ころには、Aに対して書面を交付して離婚に向けた協議をしたことが認められる。X及びAが、その後、復縁に向けた協議を行う等、婚姻関係の維持ないし継続に向けて行動したことをうかがわせる事情はない。これらの事実ないし事情に鑑みれば、XとAとの婚姻関係は、遅くとも平成23年6月4日ころまでには修復は著しく困難な程度に破綻していたということができる。」
と判示しています。
このように、離婚の意思を示していたことが重要な要素として摘示されていることが分かります。
調停を申し立てた場合
岡山地方裁判所倉敷支部平成19年8月16日は、Xが別居後離婚調停を申し立てた時点で遅くとも婚姻関係は破綻していたと認定しています。
しかし、他方で離婚調停があったというだけでは破綻を認めるべきではないと判示する裁判例もあり、決定的な要素という訳ではなさそうです。
基本的には、離婚に向けての話合いや離婚調停の申し立てがあると、特に申立てが取り下げられない限り、婚姻関係が破綻したという認定はされやすいといえます。
少なくとも離婚の意思表示は必要
よく離婚の相談で、離婚をするためには家を出て別居すればいいですか?と聴かれることがあります。
私は、単純に別居するだけではなく、離婚を申し出て話合いをしたり、調停を申し立てたりなどして、離婚を前提とした別居を行うようアドバイスしています。
ただの別居だと離婚の意思表示が無く、「婚姻関係の破綻」と認められにくくなるためです。
その意味では、離婚の意思表示というのは非常に重要な要素だということができましょう。
不貞慰謝料請求を争う場合は、このような離婚の意思表示を伴う別居があったかどうかは確認しておくべきでしょうね。
弁護士 片岡憲明
※平成30年8月28日時点の法令や判例を前提としています。法令の改廃や判例の変更等により結論が変わる可能性がありますので、実際の事件においては、その都度弁護士にご相談を下さい。
監修者プロフィール

弁護士 片岡 憲明
弁護士法人 片岡法律事務所 代表
愛知県弁護士会所属 登録年(平成15年)
1977年岐阜県大垣市生まれ。東京大学法学部卒業、2001年司法試験合格。2003年より弁護士登録し、名古屋市を拠点に法律実務に従事。現在は、弁護士法人片岡法律事務所に所属。
企業法務・交通事故・民事再生といった案件に携わった経験をもとに、現在は個人・法人問わず多様な相談に対応している。特に、離婚・相続などの家事事件や、労働問題・特許訴訟など企業法務に強みを持つ。
愛知県弁護士会および日弁連の各種委員会にも長年にわたり参加し、司法制度や法的実務の発展にも尽力。現在は日弁連司法制度調査会商事経済部会副部会長を務める。
常に変化する法的課題に真摯に向き合い、依頼者一人ひとりにとって最良の解決を目指している。



