離婚の知識
私立学校の学費と婚姻費用・養育費
当事務所では、週に1回、家事事件の勉強会を行っています。
今回は、勉強会で検討した事項の中から、子が私立学校に通っている場合の婚姻費用及び養育費の額についてお話しさせていただきます。

1 婚姻費用、養育費とは
別居中の夫婦は、収入の多い方が少ない方に対して生活費を支払う義務があります。この生活費を婚姻費用といいます。
また、離婚後も、子を監護していない親は子に対して、養育費を支払う義務があります。
そして、婚姻費用及び養育費の額は、裁判所が作成した算定表に基づいて決定されるのが一般的です。
この算定表は、生活をするために必要な住居費、食費及び教育費用等を統計から算出して、婚姻費用及び養育費の額を定めています。
2 算定表の問題点
しかし、生活のために必要な費用は、個々の家庭によって様々です。
例えば、子どもが私立学校に通う場合、公立の学校に通う場合に比べてより高額な学費がかかります。
算定表は、子が公立の学校に通っていることを前提に婚姻費用及び養育費の額を定めていますので、算定表どおりの額の婚姻費用や養育費では、子が私立学校に通うことは困難な場合が多いです。
3 算定表の修正
以上のような不都合を解決するため、婚姻費用及び養育費の支払い義務者が私立学校への通学に同意しているか、双方の学歴・職業・資産・収入・居有地域の進学状況等に照らして、私立学校への進学が相当と認められる場合には、算定表の婚姻費用及び養育費に、適切な金額が加算されます。
具体的には、
- 私立学校の学費から算定表で考慮されている公立学校の教育費(子が0歳~14歳までは年間13万4217円、15歳~19歳までは年間33万3844円)の額を控除し、
- 双方の基礎収入額(総収入額から生活にかかる諸経費等を控除した額)で按分した額を、
- 算定表の養育費の額に加算すること
が一般的です。
4 具体例
父の年収が800万円、母の年収300万円、母と生活する12歳の子1人が私立中学校(授業料年額100万円)に通う場合、養育費の額は月額いくらになるでしょう。
- (1)私立学校の学費から、算定表で考慮されている公立学校の教育費の額を控除します。
100万円-13万4217円=86万5783円 - (2)86万5783円を父母双方の基礎収入額で按分します
(基礎収入の計算方法は、次回以降機会があればご紹介させていただきます。)。
父の基礎収入 800万円×0.36=288万円
母の基礎収入 300万円×0.38=114万円
按分すると…
86万5783円×288万円/(288万円+114万円)
=62万0262円(年額)
5万1688円(月額) - (3)算定表の養育費に、5万1688円を加算します。
7万円+5万1688円=12万1688円
よって、母は父から、養育費月額12万1688円の支払いを受けることができます
(※以上は一例であり、結果は事案によって異なる場合があります。)。
5 まとめ
婚姻費用や養育費の額は、算定表どおりになることも多いですが、算定表がどのような根拠に基づいて作成されているかを知ることで、例外的な場合でも、適切な婚姻費用及び養育費の額を算出することができます。
弁護士 大口悠輔
※平成30年8月28日時点の法令や判例を前提としています。法令の改廃や判例の変更等により結論が変わる可能性がありますので、実際の事件においては、その都度弁護士にご相談を下さい。
監修者プロフィール

弁護士 片岡 憲明
弁護士法人 片岡法律事務所 代表
愛知県弁護士会所属 登録年(平成15年)
1977年岐阜県大垣市生まれ。東京大学法学部卒業、2001年司法試験合格。2003年より弁護士登録し、名古屋市を拠点に法律実務に従事。現在は、弁護士法人片岡法律事務所に所属。
企業法務・交通事故・民事再生といった案件に携わった経験をもとに、現在は個人・法人問わず多様な相談に対応している。特に、離婚・相続などの家事事件や、労働問題・特許訴訟など企業法務に強みを持つ。
愛知県弁護士会および日弁連の各種委員会にも長年にわたり参加し、司法制度や法的実務の発展にも尽力。現在は日弁連司法制度調査会商事経済部会副部会長を務める。
常に変化する法的課題に真摯に向き合い、依頼者一人ひとりにとって最良の解決を目指している。



