離婚の知識
お金をせしめた不倫相手に多額の慰謝料を払わせることができるのか?
どうやって取り戻す?
不倫相手が自分の旦那から多額のお金をもらっている場合、単純に不倫をされるよりも遥かに腹がたつものです。
そのお金をなぜ自分や子供たちのために使ってくれなかったのかと怒りも増すばかりです。
では、このような場合に旦那が払ったお金を不倫相手から取り戻すことはできるでしょうか。

裁判所のスタンス
東京地方裁判所平成21年6月10日判決は、「ところで、本件では…Aが、Yとの交際中に総額1000万円程度の支出をしていることが認められるが、仮にこれが夫婦財産を減少させる行為であり、Xの財産分与額に影響を与えることがあるとしても、その経済的不利益自体が、ただちに本件不貞行為に基づく損害といえるものではない。ただし、Yは、Aが自己と交際する中で多額の金員を支出していることを十分認識しながら交際を続けており、そのことにより、Xがさらなる精神的苦痛を被ったことも否定し得ない。その意味においては、上記事情についても、xの慰謝料額を算定する際の一事情として考慮されるべきである。」と判示しています。
つまり、①支出そのものを返還させることはできないとしながらも、②慰謝料の増額事由とすることは認めています。
夫が不倫相手からお金を取り戻すことはできない
ところで、妻が不倫相手に旦那の金の返還を求められないとして、旦那は貸したお金等の返還を求めることができるでしょうか。
結論としては、このようなことはできません。
というのも、旦那が不倫相手にお金を渡したのは、不法原因給付に該当するからです。
不法原因給付というのは、不貞関係を継続させる目的での贈与や金銭の貸借など、目的において不法で法的保護に値しない行為を指します(民法708条)。
このような不法原因給付は無効となりますし、相手方から返還してもらうことはできないことになっています。
慰謝料増額は限定的
以上のとおりなので、妻が不倫相手からお金を取り戻せるとすると、間接的に不法原因給付の規制をすり抜けることができてしまいます。裁判所はこの点を気にして、次のように述べています。
東京地方裁判所平成16年1月28日判決では、「AがYに高額な金品を贈与したことをあまり評価すると、XAが生計を同一にしている本件において、AがYの歓心を買い、不貞関係を継続させる目的で贈与したことで、本来不法原因給付として返還を求め得ない金品の返還を間接的に実現せしめることになり、相当でないというほかない。」として増額事由としても考慮しすぎることが無いように判示しています。
弁護士 片岡憲明
※平成30年8月28日時点の法令や判例を前提としています。法令の改廃や判例の変更等により結論が変わる可能性がありますので、実際の事件においては、その都度弁護士にご相談を下さい。
監修者プロフィール

弁護士 片岡 憲明
弁護士法人 片岡法律事務所 代表
愛知県弁護士会所属 登録年(平成15年)
1977年岐阜県大垣市生まれ。東京大学法学部卒業、2001年司法試験合格。2003年より弁護士登録し、名古屋市を拠点に法律実務に従事。現在は、弁護士法人片岡法律事務所に所属。
企業法務・交通事故・民事再生といった案件に携わった経験をもとに、現在は個人・法人問わず多様な相談に対応している。特に、離婚・相続などの家事事件や、労働問題・特許訴訟など企業法務に強みを持つ。
愛知県弁護士会および日弁連の各種委員会にも長年にわたり参加し、司法制度や法的実務の発展にも尽力。現在は日弁連司法制度調査会商事経済部会副部会長を務める。
常に変化する法的課題に真摯に向き合い、依頼者一人ひとりにとって最良の解決を目指している。



