財産分与における対象財産の評価方法について

財産分与の話し合いの中で、財産の評価額が問題になることがあります。

そこで、今回は、財産分与の対象となる財産(不動産、預貯金、株式、保険、退職金)の評価方法についてお話させていただきます。

財産分与における対象財産の評価方法について
相談者
相談者

離婚にあたって、夫に財産分与を求めたいのですが、どのような財産が分与の対象になるのでしょうか。

弁護士
弁護士

財産分与とは、夫婦が婚姻期間中に協力して築いた財産(これを「共有財産」といいます。)を、離婚に際して分けることをいいます。
そして、婚姻期間中に協力して築いた全ての財産が、財産分与の対象になるのですが、具体的には、不動産、預貯金、株式・投資信託等の有価証券、生命保険、退職金等が考えられます。 

相談者
相談者

夫名義のマンションがあるのですが、このマンションの評価額はどのように決めるのでしょうか。

弁護士
弁護士

不動産の評価額については、財産分与をする時(財産分与の具体的な内容について、当事者間で合意が形成できた時)の流通価格(売却した場合の金額)を評価額とすることが多いです。
なお、固定資産税評価額を不動産の評価額とすることもありますが、固定資産税評価額は、一般的には流通価格よりも安いため、評価額として用いるのは、適切ではない場合もあります。
流通価格を調査する方法としては、不動産業者に無料査定書を作成してもらうことが考えられます。
不動産鑑定士に、不動産の鑑定を依頼することも考えられますが、鑑定費用が高額であるため、あまり用いられていません。
また、住宅ローンの返済が終わっていない不動産については、ローン残額を流通価格から控除します。

相談者
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夫名義の預貯金については、いつの時点の残高が財産分与の対象になるのでしょうか。

弁護士
弁護士

預貯金については、別居時の残高が財産分与の対象になると考えられています。
なお、外貨預金に関しては、別居時の残高に、現在の為替レートを適用して、日本円に変換した上で、評価額を算出することになります。

相談者
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夫は、非上場会社の株式と上場会社の株式を保有しているのですが、それらはどのように評価されるのでしょうか。

弁護士
弁護士

非上場会社の株式の評価方法については、確立した基準というものはありませんが、純資産価額方式若しくは類似業種比準方式によって評価されることがあります。
純資産価額方式とは、簡単に言えば、会社の「純資産価額」を発行済株式数で割って、1株あたりの株価を算出する計算方法です。
「純資産価額」というのは、会社の今あるプラスの財産(総資産)からマイナスの財産(負債や含み益に対する法人税等)を差し引いたものをいいます。
類似業種比準方式とは、非上場会社の事業と事業内容が類似する上場企業の株価を参考にして、非上場会社の株価を算定する方法です。
類似業種比準方式の算定方法は、かなり複雑であるため、具体的な算定方法についての説明は割愛させていただきます。
そして、純資産価額方式若しくは類似業種比準方式によって算出された1株あたりの株価に、別居時に保有していた株式数を掛けて、評価額を算出することになります。
一方、上場会社の株式については、株式市場における1株あたりの株価に、別居時に保有していた株式数を掛けて評価額を算出することになります。

相談者
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夫が契約者になっている生命保険や学資保険については、どのように評価されるのでしょうか。

弁護士
弁護士

別居時に解約した場合の解約返戻金額が財産分与の対象となります。
保険会社に問い合わせれば、解約返戻金額の明細を取り寄せることができます。
なお、婚姻前から保険に加入している場合には、①契約時から別居時まで、②契約時から婚姻時までの解約返戻金額の明細を取り寄せる必要があります。
そして、①の解約返戻金額から②の解約返戻金額を控除した残額が、財産分与の対象となります。

相談者
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夫が勤めている会社には、退職金制度があり、将来退職金が支給される予定なのですが、退職金については、どのように評価されるのでしょうか。

弁護士
弁護士

将来の退職金については、受給の不確実性や、将来受け取る金額であり、離婚時又は財産分与時に手元にあるわけではないことを考慮し、以下のとおり、様々な算定方法が存在します。
なお、以下の算定方法①ないし③は、実務でよく用いられる方法を記載したにすぎず、他の方法が採用されることもあります。

算定方法①
定年退職時に受け取る退職金額(予定金額)を基にして、以下の計算式により、退職金額を算定する方法
将来支給予定の退職金×同居期間÷全勤務期間(定年までの予定期間含む)−中間利息※1
例えば、定年まであと5年で、将来支給予定の退職金額が500万円であり、同居期間20年、勤務期間(定年までの予定期間含む)が40年の場合、以下のとおりとなります。
500万円×20年÷40年-34万3,478円※2=215万6,522円(小数点以下四捨五入)

※1)中間利息の控除とは、将来もらえるはずの金額につき、現在価値に引き直して計算を行うことをいいます。つまり、本来は将来にし   かもらえないはずの金額を、今もらうことになるため、その分利益となる利息分をあらかじめ控除しておくというものになります。
※2)中間利息額を算出する際には、ライプニッツ係数というものが用いられるのですが、紙面の都合上、詳しい説明は割愛させていた   だきます。本件だと、中間利息額は34万3,478円となります。

算定方法②
別居時に自己都合退職した場合に支払われる退職金額を基にして、以下の計算式により、退職金額を算定する方法
別居時に自己都合退職した場合の退職金額×同居期間÷婚姻時から別居時までの期間
例えば、別居時に自己都合退職した場合の退職金が200万円であり、同居期間が5年、婚姻時から別居時までの期間が10年の場合、以下のとおりとなります。
200万円×5年÷10年=100万円

算定方法③
別居時に自己都合退職した場合に支払われる退職金額を基にして、以下の計算式により、退職金額を算定する方法
別居時に自己都合退職した場合の退職金額-婚姻時に自己都合退職した場合の退職金額
例えば、別居時に自己都合退職した場合の退職金が100万円であり、婚姻時に自己都合退職した場合の退職金が20万円である場合、以下のとおりとなります。
100万円-20万円=80万円

今回は、財産分与における対象財産の評価方法について、一般的な説明をさせていただきました。
対象財産の評価方法を正確に把握しておかないと、相手方から提案された金額が妥当なのかどうかを確かめることができませんので、とても重要です。
今回取り上げた各財産(不動産、預貯金、株式、保険、退職金)は、財産分与の話し合いの中で、よく出てくるものですので、この機会におさえておいていただければと存じます。

※2022年8月時点の法令や判例を前提としています。法令の改廃や判例の変更等により結論が変わる可能性がありますので、実際の事件においては、その都度弁護士にご相談を下さい。

電話で問い合わせ052-231-1706
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