離婚をめぐる子供の問題

離婚をめぐる子供の問題

弁護士の片岡信恒です。

離婚において、紛争の中心となるのは、財産分与(夫婦の共有財産をどのように分けるか)の問題ですが、離婚にともなう子供の問題(親権をどちらがとるか、母親と父親のどちらが養育監護するか、面会交流をどのように取り決めるか、子の引き渡しなど)も、深刻なトラブルになることが少なくないです。

今回は、これまでの経験を踏まえて、このあたりのお話をさせていただきます。

なお、私の経験については、プライバシーを配慮して、実際の話とは内容が大幅に異なりますので、ご了解ください。

1.令和4年7月、Aさんと台湾人元夫との、子供の引渡しを巡る争いがあり、注目を浴びました。

台湾人元夫との、子供の引渡しを巡る争い

台湾の裁判所で離婚手続をしたため、国際私法の知識が必要となる案件になります。

台湾は、日本とは異なり、離婚しても、父母が共同親権を持つ制度になっています。中華人民共和国離婚法でも同じです。(なお、私は我が国と同じく、台湾は中華人民共和国の一部という立場をとっています。)

私も日本人の依頼者が、中国人女性と結婚した際、その女性の前夫との子供と養子縁組した、というケースで、どのように離縁したらよいのか、という点で、困ったことがあります。

このとき私は、妻との離婚と、その養子との離縁について委任されました。離婚調停を申し立て、一定の金銭を支払うことで離婚の合意ができ、離縁についても、妻の同意は得られましたが、前夫も共同親権を持っているので、その同意も必要だと分かったのです。前夫はシンガポールに住んでいるとのことですが、こちら側では、住所を調べて直接連絡し、その意思確認をすることができませんでした。

台湾人元夫との、子供の引渡しを巡る争い

このケースでは、幸い妻の方に、弁護士が代理人として就いていたため、その弁護士が前夫の意思確認をして、離縁への同意署名を取ってくれたので、何とか解決できました。代理人弁護士が就いていないと、かなり苦労をすることになったと思います。

Aさんの件につき、若干コメントさせていただきます。

マスコミや、ネット記事などによると、Aさんは2016年9月に結婚し、2021年7月に台湾で離婚。共同親権となった2人のお子さんは、台湾で夫と暮らしていました。

2022年7月、台湾を訪れたAさんが、夫の合意のもと長男と面会し、夏休みの間、日本で過ごしていたようです。

Aさんは、子供と離れがたくなったようで、日本の裁判所に、親権者の変更を求め申立てをしました。それに対して、前夫が裁判所に子供を返すよう申立て、子の引渡しを求める保全処分を求めました。

台湾人元夫との、子供の引渡しを巡る争い

東京家庭裁判所は、Aさんに対して、長男を引き渡すよう『保全命令』を出しました。おそらく多くの弁護士は、この東京家裁の保全処分は妥当な内容と考えています。

ただ、前夫の代理人弁護士が、Aさんに対して、「未成年者誘拐罪での告訴も考える」とコメントした点には、ちょっと無理があると思いました。

台湾人元夫との、子供の引渡しを巡る争い

Aさんの代理人弁護士は、この家裁の審判についていろいろ反論をしていましたが、法律的な説得力に欠けると思いました。

「一方的な主張に基づくものである」とか、「Aさんは母親であり、一方的に攻撃を受ける社会的な弱者であり被害者です」というコメントを出しましたが、理論的な裏付けは述べていないと感じました。

ところで、家裁が出した『保全命令』とは、緊急性が高い場合に、裁判が終了するまでの間、権利が実現できるようにするために出す仮処分命令のことです。あくまでも仮のもので、最終的な判断は裁判で下されますが、このような仮処分が出されたことは、重みがあります。

この仮処分が出された背景には、『ハーグ条約(国境を越えて子供を不法に連れ去る、ことから子供を守るための条約)』に、我が国が加盟していることがあると思われます。(なお、台湾はハーグ条約に未加盟です。)

家裁は、我が国がハーグ条約に加盟していることから、子供の引き渡しを認めやすい傾向にあり、保全命令を出しやすかったと思います。

2.ところで、Aさんの案件と関係しますが、離婚調停申立に際して、保全処分として、親権者の仮指定と、子の引渡しを求めることがあります。

離婚調停申立に際して、保全処分として、親権者の仮指定と、子の引渡しを求めることがあります

ある知人の元裁判官から、かならずこの申立てを、すべきだ、と聞きました。

多くは女性側が申立てることが多いでしょうが、我が国では、母親が親権者となり、監護者になることが大半なので、このような申立てをしておくことは、依頼者の意向に沿うし、家裁も保全処分を認める可能性が高いからです。

時には、父親からの強い依頼があって、親権者を父親に指定すべきことを、裁判所で主張することがあります。しかし、母親の虐待、育児放棄、誰が見ても悪すぎる素行、母親が子供を適切に監護できる状況にないなど、子供の立場からみて、母親を親権者に指定しがたいことを、具体的に、主張・立証しないかぎりは、父親が親権者になることは難しいと思います。

母親が不貞をして、不貞相手と同居していた事例でも、それだけでは、父親が親権者となることは容易ではなく、裁判所からは、子供と1年以上同居していた父親に対して、子供を母親に引き渡すよう命じたケースもあります。

3.面会交流について

古くは、面接交渉(面接交渉権)と言われてきました。私のような古い弁護士は、なかなか面会交流という呼び方に慣れないですが、面接交渉という表現は子供の視点に立っておらず、封建的な印象を与えます。面会交流の方が、実態にふさわしいし、民主的な表現だと思います。

面会交流について

親権者(監護者)となれなかった親(多くは父親)が、面会交流を求めることは、一般的です。母親の方も、父親が面会交流することに理解がある(むしろ積極的に子供のためにも、会って欲しい、という母親も少なくないです。)ケースが増えています。父親の面会交流を、裁判所が原則として認めていることが、一般化していることも、影響があると思われます。

しかし、どうしても面会交流を認めたくない、と感情的になっている場合には、深刻な争いになります。

面会交流について

本来、子供が健全に育っていく過程では、父親と母親の双方との交流が必要と考えられています。したがって、子供と別居している父親が、子供との面会交流を求めている場合は、家庭裁判所も、原則として、この要求を認めて、母親に対して、面会させるよう説得します。

ただ、どうしても母親が面会交流を拒否すると、審判により母親に面会交流させるよう命じることになります。

もちろん、父親が子供に虐待してきたなど、子供が健全に育っていくのに面会交流を認めることが有害だ、と判断されるときは、父親の面会交流を認めないケースもありえます。

面会交流について

父親の子供への対応が、虐待、育児、養育、教育に不誠実な点があったり、これにより、子供達も父親におそれを抱いたり、強く拒否しているときは面会交流を認めないこともあります。

面会交流を認めるかどうかに関し、子供の意見を重視するかについてですが、子供の年齢と関係があります。感覚としては、小学校高学年以上だと(15歳以上という考え方もありますが、実務では、小学校高学年でも、尊重されていると思います。)、その意思が尊重されます。

なお、最近の例として、新型コロナ感染のリスクを理由に、面会を拒否するケースが目立ちました。現在、5類に分類されて、状況が変わりましたが、子供の安全を重視して、面会交流に一定の制限(回数、時間制限、Zoomによる面会交流に置き換える)が認められていました。

4.審判を守らない場合の対応

審判を守らない場合の対応

家庭裁判所が、審判で一方の親に対して、面会交流させるよう命じても、これに応じない親がいます。

この場合、まずは、家庭裁判所に申し出て、『履行の勧告』をしてもらうことが考えられます。

それでも、面会交流できないときは、この審判にもとづき、強制執行を申し立てることができます。一般的には間接強制(面会交流をさせない親に対して、一定の金額の支払いを命じる形で、面会交流を強制する強制執行です。)という形の強制執行となります。

間接強制金は、月額3万円から10万円程度が標準的と言われています。 一般に、債務者の収入が多ければ高額になり、少なければ少額になります。 また、面会交流させない対応が悪質だと、高くなりがちです。

審判を守らない場合の対応

ただ、注意を要するのは、面会交流の取決めにおいて、『面会交流の日時または頻度』、『面会交流時間の長さ』、『子供の引渡し方法』が特定していることを、裁判所が要件としていることです。(最高裁判決)

このような要件を備えていない場合でも、協議離婚の取決め、調停、審判、訴訟で面会交流が義務付けられたのに、面会をさせない場合、面会交流させないことが、不法行為となり、慰謝料請求することも、考えられます。

5.子供を対象とする、裁判所の手続きでは、およそ直接強制はできないのか、という点についてふれます。

子供は『もの』ではないので、直接子供を、執行官が監護している親から引き離して、面会交流を認められた親に渡すという直接強制は認められません。

離婚をめぐる子供の問題

ただ、私の経験では、面会交流の例ではありませんが、離婚判決で親権者に指定された母親が、子供を渡さない父親に対して、子供の引渡しを命ずる判決にもとづき、子供の引渡しの直接強制を認めたことがありました。そのケースは、子供が5歳くらいで、父親というより、その父親の父(祖父)が日常の世話をしていたが、日常の世話(衣類の洗濯、歯磨き指導、学習の指導など)を十分にせず、子供の生育環境がかなり悪かった、という緊急性がありました。

もっとも、その後、令和2年4月1日施行の民事執行法の改正(174条)により、厳格な要件のもとに、直接強制を認めるようになっています。

6.人身保護請求による子の引き渡し

人身保護請求による子の引き渡し

とても珍しい事例ですが、子供の引渡しを求めるために、人身保護請求を申し立てたことがあります。

人身保護請求とは、法律上正当な手続きによらないで、身体の拘束をされているものが、その救済を求める手続きです。

私が担当したケースは、両親と父方の祖父との間で、子供が、祖父側に一時的に連れて行かれてしまい、戻ってこなくなったという事案でした。

その頃、たまたま、子供の引渡しを求める手段として、人身保護請求が利用できるらしい、と聞き、申し立てに及びました。

人身保護請求を選んだのは、短期間で結論が出るし、子供の引渡しを強制的に実現できるということにありました。当時としては、あまり考えつかない手続きでした。

私は、両親からの引渡し請求なので、早く結論が出るし、こちらの請求は比較的容易に認められると、即断してしまいました。

人身保護請求による子の引き渡し

人身保護請求の手続きは迅速性を要請されているため、週一回、裁判所の期日が指定されました。

子供は小学校6年生で、両親のもとへ戻ることを強く拒否し、両親のもとに戻ると、子供の精神状態に深刻な悪影響が出る、との、医師の意見書も出されました。担当裁判官も、家庭裁判所調査官に指示して、子供や祖父、父親の兄弟へのヒアリングをしました。

人身保護請求による子の引き渡し

子供は両親から厳しい指導を受けたせいか、両親に対して強い拒否的態度をとり続け、小児精神科医の意見書も、両親に不利な内容で、両親のもとに戻すことに強く反対する、という内容でした。

その結果、裁判所も、子供の引渡しを認めませんでした。また、面会交流も実現できなかった、という珍しい経験をしました。

いまから20年以上前の案件なので、子供はとっくに成人しています。この両親と子供のその後がどうなったのか気になっています。

7.父親、母親のどちらも親権者、監護者になることを拒否した事例

父親、母親のどちらも親権者、監護者になることを拒否した事例

子供の親権、監護権を巡っては、ほとんどのケースは、お互いに取り合って譲らないという争いになります。

私も長年の経験の中で、一件だけ、お互いに子供を押し付け合って、親権も監護権もいらない、と主張したため困ったことがあります。最近は、幼児虐待の事例が目に付きますが、私がその事件を担当した昭和の終わり頃としては、このようなケースは、とても珍しかったです。

父親、母親のどちらも親権者、監護者になることを拒否した事例

母親は、もっぱら経済的事情により親権、監護権を放棄するという姿勢でした。父親、母親のそれぞれの親(祖父母)も全く援助する姿勢がなく、協力が得られませんでした。

父親、母親のどちらも親権者、監護者になることを拒否した事例

民法837条1項によれば、『親権を行う父又は母は、やむを得ない事由のある場合には家庭裁判所の許可を得ることにより、親権を辞することができる』と定められています。私も長年弁護士をして、トータルで6,000件を超える事件を担当しましたが、この法律を使った申立てをしたことはありません。したがって、この法律により親権を失ったあとの手続き(未成年後見人を選任するようです。)もしたことがありません。

現実に、このように両親から見捨てられた子供達が、その後どのように生育されて、どのように成人を迎えることになるのかという実情は、私にも分かりません。

父親、母親のどちらも親権者、監護者になることを拒否した事例

ただ思い出されるのは、30年以上前に担当した少年事件です。少年ら6人による、若い男女を残虐な方法で殺害したという刑事事件です。このとき、私は16歳の少女の弁護を担当しました。

この少女は、父親からも母親からも見捨てられた幼少期を送りました。養護施設で日常の養育を受けながら、小学校、中学校に通っていました。父親との接点はわずかながらありましたが、決して十分なものではありませんでした。

父親、母親のどちらも親権者、監護者になることを拒否した事例

その中でも、養育施設の職員、中学校の先生の中には、とても親身になって接してくれた方がおられたことには、感動した記憶があります。裁判所にも証人として出廷してくださって、少女の優しい一面を語ってくれました。

ここで、養護施設について簡単に説明します。

施設に入所できる対象者は、保護者がいない、虐待を受けている、家庭環境や色々な事情により、養護が必要な1歳から18歳までの児童となります。特に必要がある場合は、1歳未満の乳児や、20歳までの入所延長ができるとされています。

児童相談所から児童福祉司が家庭訪問して、必要な調査を行います。 また、判定員による心理判定や、医師による診断を行うとされています。その後、児童相談所で協議した結果、施設入所が必要とされれば入所することができます。

まとめ

以上、アトランダムにこれまでの経験を踏まえて、お話しさせていただきましたが、何かのご参考になれば幸せに存じます。

電話で問い合わせ052-231-1706
離婚相談票
PAGETOP

離婚相談票