Q&A よくある質問
離婚に関するQ&A
配偶者が精神疾患にかかった場合に離婚できるか?
当事務所では、相手方が何らかの精神疾患を抱えた事例において、離婚を成立させてきた実績があります。まずは、一般論をご説明したいと思います。
1 民法770条1項4号を満たす必要がある
そもそも、配偶者が精神疾患をわずらってしまった場合、離婚することはできるのでしょうか。
民法770条1項4号では「配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき」、離婚が認められる旨の規定があります。しかし、結論からいうと、この規定で離婚できるケースはごく限られています。
その理由ですが、まず、この規定ですと精神病は「強度の」「回復不能な」ものであることが必要です。したがって、成年後見に近いレベルの精神疾患が必要となります。「婚姻共同をなすに堪えない」「民法752条の夫婦間の協力義務が十分に果たされない」程度の精神疾患をわずらっている必要があります。
なお、精神病が強度とはいえないということで、アルツハイマーで否定された裁判例があります。
2 民法770条2項も満たす必要がある
民法770条1項4号の条件をクリアすれば離婚できるか、というとそうではありません。これに加えて、民法770条2項に則り、精神疾患をわずらった配偶者の療養、生活、看護等についてできる限り方途を講じ、ある程度今後の生活に見込みをつけないといけないとされています。1人で生活していける状況を作り出さないといけないので、なかなか大変です。
このように、精神疾患をわずらう配偶者と離婚するためには様々なハードルを乗り越える必要があるといえます。
3 精神疾患によって攻撃を受ける等されている場合
なお、精神疾患を理由として配偶者が暴力を振るっている等のケースでは、民法770条1項5号(その他婚姻を継続し難い重大な事由)で離婚を認める裁判例もあります。その場合でも、上記のような具体的な方途を全く用意してないと、離婚が認められないこともあるので、慎重に手続を行う必要があります。
4 成年後見人をつける必要も
配偶者が強度の精神病であった場合、成年後見人をつけないと離婚手続きを行うことができない場合があります。離婚という法的手続を行うにあたって、訴訟を担当する代理人的な立場の人間をつけないと公正でないからです。
これはなかなかの費用と手間がかかりますが、離婚するためには、避けては通れない手続といえます。
以上、精神疾患をわずらった配偶者と離婚するのは本当に大変です。
早期に代理人を立てて、踏むべき段取りを一つずつ踏まないと前に進まないといけません。
※記事が書かれた時点の法令や判例を前提としています。法令の改廃や判例の変更等により結論が変わる可能性がありますので、実際の事件においては、その都度弁護士にご相談を下さい。
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監修者プロフィール

弁護士 片岡 憲明
弁護士法人 片岡法律事務所 代表
愛知県弁護士会所属 登録年(平成15年)
1977年岐阜県大垣市生まれ。東京大学法学部卒業、2001年司法試験合格。2003年より弁護士登録し、名古屋市を拠点に法律実務に従事。現在は、弁護士法人片岡法律事務所に所属。
企業法務・交通事故・民事再生といった案件に携わった経験をもとに、現在は個人・法人問わず多様な相談に対応している。特に、離婚・相続などの家事事件や、労働問題・特許訴訟など企業法務に強みを持つ。
愛知県弁護士会および日弁連の各種委員会にも長年にわたり参加し、司法制度や法的実務の発展にも尽力。現在は日弁連司法制度調査会商事経済部会副部会長を務める。
常に変化する法的課題に真摯に向き合い、依頼者一人ひとりにとって最良の解決を目指している。